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「みんなの経営学」 佐々木圭吾著 日経ビジネス人文庫

著者は、経営学的思考について、主体的な意思決定を原因として考える、という。

コップをかぶせたろうそくが消えるのは、純粋な経営学的思考しか持っていない人なら、「ろうそくの火に根性がなかったから」と答えるだろうと。

「主体的な意思決定を行動や変化の結果の原因である」と認めることは、「人は直接動かすことはできない」というマネジメントの大事な前提を与える。

こと人に関しては、自分の思うようになったら、とにかく幸運に感謝と思った方が良いのであろう。

 

「優れたリーダーの条件とは」の章では、「ピーターの法則」というものが紹介されている。

「人は無能と呼ばれるまで出世する」、そのため、「やがて無能と言われるようになった地位でその人の出世は止まり、その地位に長くとどまる」、だから、「現実的に優れたリーダーに出会うことは難しくなる」。

ある程度の規模の会社になれば、組織が硬直化して、社員が腐ってしまっている例はいくらでもあるが、なかなか面白い見方をするものだ。

 

「組織は人なり」ということについては、「壊れ窓の論理」を引いて、「人も組織なり」と考える組織論を紹介している。

「壊れ窓の論理」とは、窓上ガラスの割れた自動車と割れていない自動車では、ガラスの割れた自動車の方が壊されやすいという事例から、「人間の性格や行動は周囲の環境による影響が大きい」と考える理論のことである。

 

では、「人も組織なり」という考えに基づいて組織を変革していくとはどういうことなのか。

著者は、「組織とは関係あるいはシステムのことであり、目に見える何かではありません」という。

ならば、この関係性の変革が、組織を変えていくことになるだろう。

例えば、キャリアデザインシートなどの導入は、「コミュニケーション」という関係性を変革する手段であると私は考えている。

 

著者は、また、「非経済的誘因」での従業員の維持の重要性について述べている。

「情報の民主化」が進み、人々の価値観が多様化している現在、経営理念やステータスは、思った以上に重要になってきているのかもしれない。

 

最終章の「これからの経営学」では、教育学者ショーンの「リフレクティブ・プラクティショナー(自省的実践家)」という概念が紹介される。

「理論を身につけた人は、「こうしたらこうなるはずだ」という仮説を持って行動」する、そのことにより、日々の行為が行動となり「経験」として構成されるようになるという。

しかしながら、現実は、惰性的な作業に自己革新の可能性を埋没させてしまっている場合がほとんどではないだろうか。

 

「働く人みんなのための実践教養としての経営学」というテーマは、「社会や人々の幸福を実現しようとする」経営学という学問を、教養として身につけて、経営者、社員に関わらず、主体的に充実した会社人生を送りましょう、という前向きな意図から来たものであろう。